1970(昭和45)年 勝如上人 御消息

吉崎別院は 蓮如上人ゆかりの聖地であります 今を去るおおよそ五百年 蓮如上人は 北陸一帯の地に浄土真宗のみ教えをひろめるため 吉崎の地を伝道教化の拠点とされ つぶさに草鞋竹杖のご苦労をお重ねになりました

その間 吉崎の御坊が或は火災のために焼失し 或は戦乱にまきこまれるなど 上人はしばしば図らざる災難に会われたのでありますが そのたびごとに困難をのりこえて あくまで御坊の基礎を固められ 御坊を中心に法縁は 力強く興隆の機運に向かったのであります

その後幾百星霜 御法義は北陸一円にひろまり 次第に北陸門徒の名は 全国にあまねく知れわたるようになりました このように 吉崎別院には 上人をはじめ多くのお念仏に生きた人達の苦心の長い歴史があるのですから この仏縁あつい別院を崇敬護持することは ただに吉崎別院近在の方々の責務であるばかりでなく ひろく全国同朋の関心事であり 念仏行者の生きがいでなくてはなりません

思えば 現代は 科学の進展と技術の発達によって 物質文明の全盛を呈している反面には 人間の心が見失われ 人間疎外の時代であるといわれ 今や精神文化の危機に直面しているとも考えられるのであります このような時代に 人々の心の中に お念仏のともし火を明らかにともすことは お互いお念仏に生きる者のなにより大切なつとめであり 今こそ私達は 深く宗祖親鸞聖人のおさとしを味わい 蓮如上人のお心持ちを体して 真の平和と幸福とは お念仏の生活から生れるものであることを 自らの実践の中で明らかにしなくてはなりません

このたび 本年八月六日より八日まで吉崎別院において 蓮如上人吉崎御開創五百年記念法要が勤まるにあたり 御縁の深い方々には遠近各地より 賑々しく参詣の足を運ばれ 心静かに上人のご恩徳を偲ばせていただくとともに念仏者の使命に深く思いをいたし お念仏に生きるすべての人の願いと喜びをこめて いよいよ吉崎別院の護持発展につくされますよう 切に念願するところであります

昭和四十五年三月二十一日龍谷門主 釋勝如(御判)
※本願寺吉崎別院所蔵

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